
漢方外来
漢方外来
「お口のトラブルは、歯や歯ぐきの問題だけではない」と当院は考えます。体の不調が口内炎やドライマウス、顎の痛みなど、さまざまなお口の症状として現れることがあります。当院では、西洋医学的な治療に加え、患者様お一人おひとりの体質や症状に合わせた漢方薬による治療も提供しています。
「漢方薬」と聞くと、特別な治療に感じるかもしれませんが、歯科医院での保険診療でも、現在10種類以上の漢方薬処方が認められています。これにより、より多くの患者様が、費用を抑えつつ漢方治療を気軽に始められるようになりました。
漢方薬は、症状の原因となっている体全体のバランスを整え、患者様が本来持っている自然治癒力を高めることを目指します。
これらの症状に対し、当院では患者様の体質や「証(しょう)」を見極め、適切な漢方薬を選択します。西洋薬との併用で、より効果的な治療が期待できる場合もあります。
漢方外来では、患者様が悩まれている症状を、東洋医学的な診察を行いながら詳しくうかがいます。患者様の症状や生活習慣などから、身体や心のバランスが乱れている可能性を考え、その時々の状態に合った漢方薬を処方します。悪影響を及ぼしている可能性のある生活習慣があれば、その都度、生活指導をさせていただきます。
漢方薬は複数の生薬(植物の葉・根・茎・果実など)の組み合わせで構成されています。人工的に合成された化学物質は含んでいませんが、西洋医学的な治療だけでは改善しにくい症状でも、効果が得られることも少なくありません。
漢方治療は、症状を改善するだけでなく、根本的な原因を解決して、より健康な状態を実現するための統合的な治療です。そのため、自覚症状だけでなく、背景を考慮して、食事や生活習慣の改善を行い、心身のバランスを回復させることも重要になります。
また、「未病」を防止するための有効な手段としても広く使われています。未病とは病気が起こる前に生じる水面下での心身のバランスの乱れをいい、この段階で生活習慣の改善と漢方を用いて、免疫力の向上や体内のバランスを整えることで、あらかじめ病気の発症を防ぎます。
漢方外来では、「随証治療(ずいしょうちりょう)」という漢方医学の見方で診療を行います。「随証治療」とは、「証(しょう)に随(したが)って治療する」という意味で、「証」は、患者様の体質や病気・症状、心と体の状態を表し、これらは独特な見方で分類することができます。そのパターンに応じた漢方薬を適切に使用することで、治療効果を高めます。「証」の評価には「気血水(きけつすい)」、「陰陽(いんよう)」、「虚実(きょじつ)」などを用います。気血水とは、体内の気や血の均衡を指し、陰陽は陰と陽の力の均衡を、虚実は虚弱と強壮の状態を指します。
「気」とは形のないエネルギーで、体を動かし、温め、守る働きがあります。元気の気と考えると分かりやすいでしょう。この元気が不足している状態を「気虚(ききょ)」といい、ストレスが溜まって悪影響を及ぼしている状態を「気滞(きたい)」といいます。
「血」は体を滋養する働きがあります。この働きが低下すると、動悸、疲れやすい、目の下にクマができやすい、貧血のような症状などが現れることがあります。「血液」の概念とは異なります。体の栄養が足りていない状態を「血虚(けっきょ)」といい、栄養が体のどこかで滞っている状態を「瘀血(おけつ)」といいます。
「水」とは水の要素であり、体に潤いが足りていない状態を「陰虚(いんきょ)」といいます。体の水が滞る状態を水滞(すいたい)といい、めまい、体が重い、顔や足などのむくみ、のどが渇きやすい、多汗などの症状と関係します。
陰陽の物差しでは、大まかな体の傾向を知ることができます。たとえば体が冷えているのか、それとも熱がこもっているのか。体の熱の状態を知ることで、温めるべきか、冷ますべきかが分かり、バランスを整えるための対応ができます。
病気の勢いと、それに対する体の防衛反応の強さを表したもので、「実証」と「虚証」があります。「実証」は病気の勢いに抵抗する体の反応が強い状態です。汗が出ず、体力があり、便秘傾向となることが多く、この場合、汗を発散させたり、便を下したりする生薬を含んだ処方が役立ちます。一方、「虚証」は汗が出やすく、体力がなく、冷えて下痢傾向となります。この場合、体の表面を守る気の働きを助け、消化機能を高める生薬を含んだ処方が役立ちます。
五行とは、自然界の森羅万象を「木」「火」「土」「金」「水」の5つに分類した哲学ですが、漢方では人間を自然界の一部と捉えていることもあり、人体にこの哲学を応用して体を大きく5つに分類しています。これが「五臓」という考え方です。五臓にはそれぞれ「肝」「心」「脾」「肺」「腎」という名が付けられていますが、漢方で考える臓器の働きは、現代医療の臓器そのものをみる見方とは異なります。簡単にいうと、体の機能や役割、臓腑や部位をざっくりと5つに分類した、というイメージです。たとえば、「肝」は精神の活動を安定させる働きがあり、肝の機能が低下すると、怒りやすくなったり、不安などの症状が出やすくなったりすると考えられています。
漢方の五臓には主に下記のような働きがあり、これらを確認することで、その人の体質や傾向が分かります。
療の基本として用いられる四診(ししん)は、五感を駆使して行う漢方独特の診断法で、病状を正確に把握することができます。四診によって得られた情報をもとに、漢方薬を適切に使い、治療効果を高めることが可能となります。
四診には、望診、問診、聞診、切診があります。
体格、動作、顔色や皮膚の状態(色など)、舌など、患者様の全体を見たときの印象を漢方の見方で解釈します。なかでも舌の観察(舌診)は、漢方診療において有用で、舌の形状や舌質の色、苔の色や厚さにより、体力や寒熱などを判断することができます。
主訴や自覚症状、病歴、家族歴を確認する点では西洋医学と共通しますが、食欲、排便、睡眠、汗、口の渇き、月経の状態、冷えやのぼせ、季節や時間帯による症状の変化など、いくつかの漢方治療に必要な項目を確認し、全身状態を把握します。
聴覚と嗅覚を使った診察で、声の調子や呼吸音、せきの音、お腹の鳴る音などを観察します。分泌物や口臭の有無などが参考になる場合もあります。
直接手で触れて診断することで、西洋医学でいう触診を意味します。切診で特に重要となるのは脈診と腹診です。脈診は両手首の動脈に指をあてて、脈の速さや力を確認します。腹診はお腹に触れて腹部を診ることで、抵抗感(押した時の押し返す力など)や圧痛点(押した時に痛む部分)などを確認します。
漢方治療では、一人ひとりの患者様の体質や自覚症状を重視し、生活の質(QOL)の向上をめざします。病気を診て、さらには人を診る医療であり、心身に優しい治療ともいえます。しかしながら、漢方治療にも得手不得手があります。一般に漢方が顕著な効果を示すのは、自律神経、免疫機構、内分泌系が関与したいずれかの病態であることが多いといえます。一方、口腔がんなど手術を要する疾患や細菌感染症といった治療は難しく、こうした病気があることがはっきりしている場合は、漢方にこだわる必要はなく、西洋医学的アプローチが大切になります。
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