2025年11月08日
〜 顎の成長を促し、将来の歯列矯正の負担を軽減するために 〜
最近、「うちの子の顎が小さいかも」「将来、歯並びの治療(顎矯正など)が必要になるかもしれない」とご心配されている親御さんが増えています。その背景には、現代の食生活における「噛む力の低下」が大きく関わっていると考えられます。
ご心配な気持ち、よく分かります。しかし、成長期にあるお子様の顎は、まだ成長を促すことが可能です。当クリニックでは、「よく噛む」というシンプルな動作が、顎の成長を最大限に引き出し、将来の顎矯正治療の必要性やその程度を軽減できる可能性を秘めた重要な「運動」であると考えています。

噛む力(咬合負荷)が顎の成長を促すメカニズム
お子さんの顎の骨は、成長期に食事の際に加わる「噛む力(咬合負荷)」によって物理的な刺激を受け、発達します。
顎骨の形成を促すメカニズム
国立大学法人東京医科歯科大学(現・東京科学大学)などの研究により、噛む力そのものが顎の骨の構造を造り変える分子メカニズムが解明されています。硬い食事で咀嚼を強化した動物実験では、顎骨に加わる力が増加し、骨細胞が活性化して骨の形成が促進されることが示されています。これは、「噛む運動」が顎の形や大きさに直接影響を与えることを裏付けています(文献1, 2)。
未熟な噛み方から成熟した噛み方へ
顎の成長のためには、単に噛む回数だけでなく、「噛み方」の質を向上させることが重要です。
・未熟な噛み方: 食べ物を数回噛んで飲み込む、上下の動きが主体の垂直的な「チョッピング(噛み切り運動)」
・理想的な噛み方: 奥歯で食べ物をすり潰すような、垂直方向に加えて水平方向にも動かす「臼磨運動 (Grinding movement)」
柔らかい食べ物ばかりでは、未熟なチョッピングが習慣化し、顎の成長に必要な側方への運動(臼磨運動)が不足します(文献3)。これにより、顎骨が十分に発達せず、叢生(歯のデコボコ)などの歯列不正につながるリスクが高まります。
ご家庭でできる!顎の成長を促す具体的な工夫
お子さんの顎の成長を促し、より成熟した「臼磨運動」を引き出すために、日々の食事で意識したい具体的な対策をご紹介します。
食材の「硬さ」と「繊維質」を意識する
顎に十分な負荷をかけるために、硬さや弾力のある食材、そして食物繊維の多い食材を積極的に選びましょう。
例: 根菜類(ゴボウ、レンコン)、きのこ類、海藻類、弾力のある魚介類、全粒穀物など。
「調理法」と「食材の大きさ」を工夫する
調理法や食材の切り方を工夫して、噛む回数を増やし、奥歯でしっかりすり潰す必要性を生み出しましょう。
調理法:
・野菜は加熱しすぎず、生野菜や芯を残した固さで提供する。
・煮物などは柔らかく煮込みすぎない。
食材の大きさ:
・小さく刻みすぎず、一口サイズより少し大きめにカットする。
・肉は細切れよりも塊肉や厚切りのものを意識し、噛み切りにくさをあえて作る。
「噛むトレーニング」を取り入れる
噛む力を意識的に鍛えることも効果的です。私の出身大学である日本大学松戸歯学部小児歯科の関連研究でも、地元小学校の児童に噛む力を鍛えるガムを噛ませた結果、噛ませた児童群に顎骨成長に対して効果があったことが示されています。普段から意識して「噛む」時間を増やすことが大切です(文献4)。
当クリニックがお手伝いできること:成長の力と専門治療の融合
ご自宅での「噛む習慣」の改善は、顎の成長を最大限に引き出すための強力な土台づくりです。この自宅での努力が実を結び、顎が十分に成長すれば、矯正装置の使用が不要になったり、治療期間や費用が大幅に軽減される可能性が生まれます。
しかし、歯並びの問題には噛む力だけでは改善が難しい骨格的なズレや遺伝的な要因も複雑に関わっています。そのため、私たち専門家のサポートが不可欠です。
自宅での努力を最大限に活かす専門的なサポート
当クリニックでは、お子様の「顎の健全な成長」を総合的な健康の基盤と捉え、その力を最大限に引き出すことに注力しています。
・自宅での取り組みを専門的に評価: まず、ご自宅での「噛む習慣」の取り組み状況を丁寧に確認し、お子様一人ひとりの顎の発育状況に合わせた具体的な食育アドバイスを行います。
・成長の力を利用したサポート: ご自宅での努力と並行して、お子様の成長期(特に乳歯と永久歯が混在する時期)における顎の成長を専門的な観点から適切に誘導していきます。
・負担の軽減と予防: この成長期を活かしたアプローチにより、将来、本格的な矯正治療が必要になったとしても、その程度を軽度に抑える、あるいは治療自体が不要になる可能性を高めます。これは、お子様への心身の負担を最小限に抑えるための重要なステップです。
私たちは、「噛む習慣」の改善という親御さんの努力を無駄にせず、最も効率的で優しい方法でお子様の健康な顎の成長をサポートします。
まずはご相談へお越しください
お子様の顎の成長は、タイミングが非常に重要です。
「顎が小さいかも」「歯並びが気になる」と感じたら、ご自宅での食育を始めるのと同時に、専門家による成長評価を受けることを強くお勧めします。
当クリニックでは、無料の矯正相談を実施しております。噛む習慣を含めた生活全体を拝見し、「今の時点で矯正が必要か」「自宅での取り組みだけでどこまで改善できるか」を具体的にお話しさせていただきます。
お子様の未来の健康的な笑顔のために、ぜひ一度ご相談ください。
【引用文献】
1.国立研究開発法人日本医療研究開発機構 (AMED). プレスリリース「噛む力が顎の骨を造り変える分子メカニズムを解明」. 2019年3月20日.
2.東京医科歯科大学. プレス通知資料(研究成果)「成長期の咬合負荷低下が、咀嚼運動の発達を阻害する」. 2021年3月30日.
3.Defabianis P. Impact of mastication on maxillofacial morphology and on the construction of the occlusion. ResearchGate. 2023.
4.葛西一貴, 根岸慎一 林 亮ほか. 成長期児童における歯列弓形態の成長変化に関する研究. Orthod Waves-Jpn. Ed, 69:23-35, 2010. *(日本大学松戸歯学部 葛西特任教授による、成長期児童の顎発育に関する関連研究例)
瀬谷アクロスデンタルクリニック
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