2026年9月02日

こんにちは。瀬谷アクロスデンタルクリニック院長の黒﨑です。
当クリニックでは、患者さん一人ひとりの将来のお口の健康を守るため、科学的根拠(エビデンス)に基づいた予防歯科に力を入れています。
先日、患者さんからこのようなご質問をいただきました。
「甘い飲み物がむし歯によくないのは分かっているけれど、週にどれくらいまでなら飲んでも大丈夫ですか?」
毎日我慢するのはつらいけれど、具体的な目安があれば気をつけやすいですよね。
今回は、私が以前勤務していたクリニックで実際に経験した「ある兄妹の事例」を交えながら、むし歯リスクの境界線についてお話しします。
実際の事例:同じ家庭で育った兄妹に起きた「むし歯の差」
それは、小学生の兄妹のご家族のケースでした。
未就学児の頃までは、お兄ちゃんも妹さんも二人ともむし歯はまったくありませんでした。
しかし、小学生になってから、なぜか妹さんにだけむし歯が次々とできてしまうようになったのです。
親御さんは「食べるものも同じだし、歯磨きも同じようにさせているのに、なぜ…」と大変悩まれていました。
詳しくお話を伺い、お口のチェック(ブラッシング状態の確認)を重ねたところ、驚くべき事実が分かりました。
【食事や歯磨きのレベルは同じ】
二人の普段の食事内容に大きな差はなく、歯磨きの状態(ブラッシングの技術)を見ても、妹さんが特別劣っているわけではありませんでした。お兄ちゃんと同じくらい綺麗に磨けていたのです。
【唯一の「違い」は普段の飲み物】
喉が渇いたとき、お兄ちゃんがいつも飲んでいたのは「水や麦茶(無糖)」。一方で、妹さんはペットボトルの「加糖紅茶(ストレートティーなど)」を日常的に好んで飲んでいました。
つまり、むし歯の数を大きく分けてしまった原因は、歯磨きの丁寧さではなく「普段から甘い飲み物を常飲(常に飲むこと)していたか、していなかったか」の差だったのです。
その後、妹さんにはむし歯の治療と並行して、飲む回数や種類(お茶やシュガーフリーへの切り替え)をコントロールする取り組みを始めてもらいました。その結果、3ヶ月おきの定期健診を続けながら、その後1年間は新しいむし歯の再発をゼロに抑えることができたのです。
結論:リスクが高まるラインは「週に3回以上」
この事例からも分かるように、ジュースやスポーツドリンク、砂糖入りのコーヒーや紅茶などの甘い飲み物を「週に3回以上(およそ2日に1回以上)」飲む習慣がある人は、そうでない人に比べてむし歯のリスクが有意に高くなります。
「毎日飲まなければセーフ」と思われがちですが、週の半分近く、定期的に砂糖がお口に入る環境があると、むし歯菌の活動が活発な状態がキープされてしまうのです。
世界保健機関(WHO)の基準とペットボトル1本の現実
WHO(世界保健機関)のガイドラインでは、健康を守るための砂糖の摂取量を「1日あたり約25g(小さじ6杯分)まで」に抑えることを推奨しています。
しかし、一般的な500mlの炭酸飲料やスポーツドリンク、加糖紅茶には、1本あたり約30g〜60gもの砂糖が含まれています。つまり、「週に1本でも、500mlのジュースを飲み干した時点で、1〜2日分の砂糖の許容量をオーバーしてしまう」というのが現実なのです。
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乳幼児期のジュースの「量」が歯に与える影響については、こちらの記事で詳しく解説しています
▶ 1歳半健診でも話題に!「1日100mlのジュース」が虫歯リスクを高める理由
なぜ「量」よりも「回数(頻度)」が問題なのか?
歯科医学において、むし歯リスクを左右するのは、実は飲む総量よりも「お口の中に砂糖がある時間と回数」です。
お口の中の酸性度を表すグラフ(ステファン・カーブ)を見るとよく分かります。
・甘いものを飲むと:
お口の中が酸性に傾き、歯の表面(エナメル質)が溶け始めます(脱灰:だっかい)。
・だ液の力で元に戻る:
飲み終わってから、だ液の力で約20〜30分かけてお口の中が中性に戻り、歯が修復されます(再石灰化:さいせっかいか)。
もし、甘い飲み物を「週に何度も」飲んだり、勉強や仕事のお供に「机に置いてちびちびダラダラ」飲んだりしていると、お口の中がずっと酸性のままになり、だ液による修復が追いつかなくなります。これが、常飲がむし歯リスクを跳ね上げる最大の理由です。
近年増えている「シュガーフリー」への切り替えも有効!
「どうしても口寂しくて飲んでしまう」「仕事や勉強の合間に何か飲みたい」という方は、最近お店でもよく見かけるシュガーフリー(砂糖不使用・ゼロカロリーなど)の飲み物に切り替えるのが非常に有効です。
これらに使われている人工甘味料などは、むし歯菌のエサ(酸を作る材料)にならないため、お口の中のむし歯リスクをグッと下げることができます。
歯科医師からのワンポイントアドバイス
シュガーフリーはむし歯予防にとても効果的ですが、炭酸飲料やスポーツドリンクなどは、砂糖が入っていなくても飲料自体が強い酸性であるケースが多いです。そのため、これらも一日中ちびちびダラダラ飲むと、酸によって歯の表面が弱くなる原因(酸蝕症:さんしょくしょう)になることがあります。
「飲むときは飲み切る」を意識するとさらに安心です。
楽しむための「3つのマイルール」
むし歯を抑えるという観点だけから言えば、甘い飲み物は「完全にゼロ」にすることが一番望ましいのは間違いありません。しかし、日々の生活の中で甘い楽しみをすべて無くしてしまうのは、なかなか難しいことだと思います。
大切なのは、リスクのラインを意識しながら、無理のない範囲でコントロールしていくことです。そのために、次のようなマイルールを生活に取り入れてみてはいかがでしょうか。

ルール1:飲むなら「週に1〜2回」のご褒美にする
平日常習化させるのではなく、「週末のお出かけの時だけ」など、週に1〜2回のお楽しみに留めるのがベストです。
平日はお水や麦茶、シュガーフリー飲料を上手に活用しましょう。
ルール2:ダラダラ飲まず、15分以内に飲み終える
時間をかけて飲むのが最も危険です。飲むときはしっかり味わって、サッと飲み終えましょう。
ルール3:飲んだ後は「お水」でリセット
外出先などですぐに歯磨きができない時は、砂糖入り・シュガーフリー問わず、飲んだ直後にお水やお茶を飲んでお口の中を洗い流すだけでもリスクを下げることができます。
まとめ:あなたのライフスタイルに合わせた予防を
先ほどご紹介した妹さんのように、原因を見つけ、種類や飲み方のコントロールと定期的なケアを行えば、むし歯のリスクは確実にコントロールできます。
当クリニックでは、お一人おひとりの食習慣やライフスタイルを伺いながら、無理のない範囲で進められる予防プランを一緒に考えていきます。「歯磨きを頑張っているのにむし歯ができる…」とお悩みの方も、ぜひ一度お気軽にご相談ください。定期検診でのプロフェッショナルケアと合わせて、大切な歯を一緒に守っていきましょう。
【参考文献】
1.World Health Organization. (2015). Guideline: Sugars intake for adults and children. Geneva: World Health Organization.
2.Bernabé, E., Vehkalahti, M. M., Ventelä, M., Aromaa, A., & Suominen, A. L. (2014). Sugar-sweetened beverages and dental caries in adults: a 4-year prospective study. Journal of Dentistry, 42(7), 952-958.
3.Sheiham, A., & James, W. P. (2014). A new understanding of the relationship between sugars, dental caries and MTI. Public Health Nutrition, 17(10), 2176-2184.
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