2025年12月12日

お子さんが転んだり、遊具にぶつかったりして、大切な歯が欠けたり、折れたり、ひどい場合は丸ごと抜けてしまうことがあります。
そんな時、親御さんはパニックになってしまいがちですが、その後の対応とスピードで、歯を残せるかどうかの成功率が大きく変わってきます。
小児に多い「歯牙破折(はがはせつ)」と「歯牙脱臼(しがだっきゅう)」について、親御さんが現場で取るべき最重要の応急処置をお伝えします。
歯が折れた・欠けた時の応急処置
歯の一部が欠けたり、折れたりした場合、まずは落ち着いて以下の手順で対応してください。
1.破片を探して回収する
折れた歯の破片が見つかったら、絶対に捨てずに回収してください。
破片を元に戻して接着できる可能性があるためです。
2.破片を「乾燥させずに」保存する
破片を乾燥させると治療が難しくなるため、「乾燥させないこと」が最も重要です。
・最良の保存液:歯の保存液(※)、または成分無調整の牛乳。
(牛乳にアレルギーがある方は牛乳は使用しないでください)
・次善の策:生理食塩水。
・緊急時:清潔なラップで包む、またはお子さんの口の中(頬と歯ぐきの間)に入れて乾燥を防ぎます。
(ただし、飲み込む危険性がない年齢に限る)
・注意点:水道水や消毒液は、絶対に避けてください。
(歯の周りにある組織(歯根膜)を傷つけてしまうため)
(※)近年、学校や一部のご家庭で「歯の保存液」を常備している場合があります。

3.早めに歯科医院を受診する
破片が見つからなかった場合も、必ず受診してください。欠けた部分が小さくても、歯の神経にダメージを受けている可能性があるため、診察が必要です。
歯が完全に抜けた(脱臼)時の応急処置【時間との勝負!】
歯が丸ごと抜け落ちてしまった場合、受診までの時間と歯の保存状態が再植の成功率を左右します。
1.抜けた歯をきれいに拾う
・絶対に守ること:
抜けた歯の根っこ(根本の白い部分)には絶対に触らないでください。根っこを覆っている組織(歯根膜)が、再植成功のカギを握っています。歯の頭(噛む部分)を持って優しく拾い上げましょう。
・汚れた場合:洗浄の原則と当院のスタンス
【理想】:
泥や砂などで汚れた場合は、ゴシゴシ洗わず、生理食塩水または牛乳の流水で10秒以内にサッと洗い流すのが理想です。
【理由】:
水道水は浸透圧の関係で歯根膜細胞を破壊するリスクがあるため、公式なガイドラインでは推奨されていません。
【当院のスタンス】:
しかし、緊急時に生理食塩水や牛乳がない場合は、汚れたままにするよりも、水道水であっても極めて短時間(数秒程度)で洗い流し、すぐに保存液に入れることを許容します。これは、汚染による細菌感染を防ぐための、やむを得ない次善の策です。
2.抜けた歯を「乾燥させずに」保存し、すぐに持っていく
抜けた歯を活かすため、乾燥を防ぐことが最も重要です。
【最良の保存法】
牛乳または生理食塩水に歯を入れ、そのままお持ちください。
【重要】牛乳アレルギーがある場合は、牛乳は絶対に使用しないでください。
【応急的な保存法(生理食塩水などがない場合)】
方法A(推奨):可能であれば、抜けた元の穴に歯の向きを間違えないように優しく戻してください。痛みがある場合は無理をしないでください。
方法B:抜けた歯を本人の口の中(頬と歯ぐきの間)に入れて乾燥を防ぎます。
(ただし、飲み込む危険性がない年齢に限ります。)
3. すぐに歯科医院に連絡し、指示を仰ぐ
向かう前に必ず電話で状況を伝え、すぐに診てもらえるか確認しましょう。
※理想:30分以内に歯科医院に到着することが理想です。
知っておいてほしいこと:乳歯と永久歯の違いと経過観察
【乳歯と永久歯の対応の違い】
・乳歯が抜けた場合:永久歯の芽を傷つける可能性があるため、通常は再植しません。しかし、抜けた場所の確認や永久歯への影響チェックのため、必ず受診が必要です。
・永久歯が抜けた場合:条件が良ければ再植(元の位置に戻す)が可能です。抜けた歯を正しく保存して、一刻も早く歯科医院へお越しください。
【共通の注意点:長期的な経過観察】
歯牙破折や脱臼は、一見治ったように見えても、数週間後、数カ月後、あるいは数年〜数十年後に症状(歯の変色や根の病気など)が現れることがあります。
乳歯の外傷は、将来生えてくる永久歯に影響を及ぼす可能性があります。「大丈夫そうだ」と自己判断せず、特に目立った症状がなくても定期的な経過観察を続けることが、お子さんの将来の歯を守る上で大変重要です。
お子さんがケガをした時、親御さんが動揺するのは当然です。しかし、お子さんの歯を残せるかどうかは、親御さんが落ち着いて行動できるかどうかにかかっています。
最も重要な心構え
まず、深呼吸をして落ち着きましょう。パニックにならず、冷静に状況を確認し、迅速に対応することが、お子さんにとって最も心強いサポートとなります。
【緊急時に覚えるべき3つの行動】
1.歯の破片や抜けた歯を回収する。根っこに触らない。
2.牛乳または生理食塩水で「乾燥させずに」保存する。
3.できるだけ早く歯科医院に連絡し、受診する。
この情報がお子さんの歯を守る一助となれば幸いです。
【情報】歯の再植の成功率を左右する「ゴールデンタイム」
抜けた永久歯を元の位置に戻す「再植」治療の成功率は、受傷から歯科医院で処置を開始するまでの時間によって大きく変動することが、多くの研究で示されています。
成功の鍵を握るのは、歯の根の周りにある歯根膜細胞が生きた状態で残っているかです。

【重要】
このため、抜けた歯を乾燥させずに、いかに早く歯科医院に運ぶかが、お子さんの歯を残せるかどうかの運命を分けます。
瀬谷アクロスデンタルクリニック
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