2025年10月25日
その虫歯、あなたの夢の妨げになっていませんか?
「虫歯は放っておいても大丈夫」—もしそう考えているとしたら、それは大きな間違いかもしれません。
歯科医療の進歩した現代において、「虫歯があるから就けない」と明確に定められている職業は多くありません。しかし、仕事中に「命の危機や重大な支障をきたす可能性がある」という理由で、完璧な口腔内の健康状態が求められる職業は存在します。
その代表格が、パイロットや宇宙飛行士、そして潜水士(ダイバー)です。これらの職業に共通するキーワード、それは「気圧の変化」です。
誰もが注意!気圧の変化が引き起こす「気圧性歯痛」のメカニズム
飛行機に乗った時や、台風が近づいた時、耳がキーンと痛くなる経験はありませんか?これと同じ現象が、歯の中でも起こるのが気圧性歯痛(バロドンタルジア)、特に飛行機搭乗時に起こるものを航空性歯痛と呼びます。
歯が痛む仕組み
普段意識することのない気圧ですが、私たちの体内の圧力と外の気圧は常に均衡を保っています。しかし、気圧が急激に変化すると、このバランスが崩れてしまいます。
1.空洞に空気が閉じ込められる:未治療の虫歯の穴、治療の途中で中断してしまった歯、不適合になった古い詰め物・被せ物の下のわずかな隙間などに、空気が閉じ込められます。
2.気圧の低下:
 ・飛行機が上昇する、
 ・ダイバーが浮上する、
 ・高地へ登山する、
 ・台風が接近して低気圧になる、 といった状況で、周囲の気圧が急激に低下します。
3.空気の膨張と神経の圧迫:閉じ込められた空気は体積を増し(膨張)、その結果、歯の内部から神経や周囲組織を強く圧迫します。
4.激しい痛みの発生:これが「キーン」「ズキッ」とした鋭い痛みの正体です。普段は感じない小さな虫歯でも、気圧の変化によって激痛に変わり、集中力の低下や耐え難い苦痛を引き起こします。
命と安全を守るために「歯の健康」が必須の職業
(1) 航空機パイロット
パイロットは、航空法に基づく「航空身体検査」をクリアしなければなりません。この検査では、「口腔及び歯牙に航空業務に支障をきたすおそれのある疾患又は機能障害がないこと」が明確に定められています。
上空で航空性歯痛が発生すれば、その激痛により操縦ミスや判断力の低下を招き、大事故に繋がりかねません。乗客の命を預かる責任の重さから、歯科疾患の徹底的な治療と予防が求められます。
(2) 潜水士(ダイバー)
私は以前、横須賀のクリニックで院長をしていた際に、職業ダイバーとして活躍されている患者さんを担当させていただきました。
彼らの仕事は、常に水圧と戦う環境です。潜水中の急激な水圧(気圧)の変化も、同様に歯の痛みを引き起こし、海中という特殊な環境でパニックや浮上時の問題が発生すれば、それは即座に命に関わる危険となります。そのため、彼らは治療済みの歯はもちろん、詰め物や被せ物のわずかな隙間さえも常に細心の注意を払っていました。
(3) 宇宙飛行士
最も完璧な口腔衛生が求められる職業と言えます。宇宙空間は、旅客機とは比べ物にならない減圧環境です。一度宇宙へ行ってしまえば歯科治療は事実上不可能となるため、未然の予防が極めて重要です。
あなたの旅行や日常を快適に過ごすために
これらの事例から分かるのは、未治療の虫歯や不完全な治療がある状態では、特定の職業に就くことだけでなく、日常の活動にも影響が出かねないということです。
「進行した虫歯や、歯科治療の途中の歯は、高地でのハイキングや飛行機への搭乗で痛みが出たり、痛みが増す可能性があります」—これは私が患者さんによくお話しする言葉です。
せっかく楽しみにしていたご旅行や、趣味の登山、スキューバダイビングにあたって、予期せぬ歯の痛みに悩まされるのはもったいないことです。
夢を追う方も、健康な毎日を送る方も、ぜひ一度、当院で口腔内のチェックと適切なメンテナンスを受けてください。未来の安全と快適な生活のために、今できる予防と治療を一緒に進めていきましょう。