2026年9月12日

先日、当クリニックに急患として2歳のお子様が来院されました。主訴は「転倒して誤って舌を噛んでしまった(咬傷)」というものでした。
付き添われていた親御さんも大変不安なご様子で、お子様自身も痛みと驚きで泣き叫んでしまう状態でした。
幸いにもすでに出血は止まっており、筋層まで達するような深い傷ではなかったため、今回は消毒を行った上で経過観察という診断に至りました。
しかし、この診療において一つの大きな壁となったのが、「お子様が歯科医院という環境に慣れていないこと」でした。
見慣れない機材、明るい照明、マスクをしたスタッフ。
ただでさえケガによるパニックがある中で、初めて訪れる歯科医院への恐怖が重なり、お口の中をしっかりと見せていただくまでに非常に苦慮する場面がありました。
今回はこのケースを通じて、なぜ「痛くなる前、ケガをする前」からの早期の歯科受診が重要なのかについて、小児の発達や予防医学の観点から詳しくお話しします。
小児期に頻発する「お口のトラブル」と初期対応の壁
歩き始めから幼児期にかけてのお子様は、身体の重心が高く頭が大きい(頭部が大きい)ため、バランスを崩しやすいという特徴があります。さらに、転びそうになった時にとっさに手を前に出す反射運動がまだ十分に発達していないため、顔面や口周りを直接床や家具にぶつけてしまう外傷が日常的に起こりやすい時期です。
お子様の歯の破折(折れる)や脱臼(抜ける)、お口周りの外傷時の対応については、
過去のコラム
「【緊急対応】子どもの歯が「折れた」「抜けた」」や、
「転倒・衝突!乳幼児の「口の外傷」その時どうする?」
でも詳しく解説しています。外傷などの緊急時には、神経の保存や歯の生着率を高めるために、迅速かつ適切な処置が不可欠です。
しかし、それまで一度も歯科医院を受診したことがないお子様の場合、強い恐怖心から激しく抵抗してしまうことが少なくありません。精度の高い診査・診断が困難になるだけでなく、本来必要な処置(縫合や固定など)が安全確保の観点から実施できず、「手を出せない」という最悪のリスクが生じることもあります。
0歳(乳歯萌出期)からの受診が推奨される理由
瀬谷区では近隣の歯科医院さんでも0歳児からの歯科検診を積極的に推奨されていますが、当クリニックとしても全く同じ考えを持っています。
乳歯が初めて萌出し始める生後8ヶ月頃のお口の中は、先天的なものを除けば、むし歯などの疾患が一切ない「まっさらな状態」です。この時期から歯科医院に関わる最大のメリットは、「疾患がないため、治療を急ぐ必要がない」という点に尽きます。
また、小児歯科の分野では「感染の窓(Window of Infectivity)」と呼ばれる、むし歯菌(ミュータンス菌)が定着しやすい危険な時期(生後19ヶ月〜31ヶ月)が存在します。この時期を迎える前の0歳から予防管理をスタートすることは、将来のむし歯リスクを劇的に下げるための最も理にかなったエビデンスに基づくアプローチでもあります。
▶【感染の窓とは?】乳歯列期に親の口内を清潔に保つことが、お子さんの生涯の歯を守る理由
治療ゼロだからできる「スモールステップ」の確立
すでにむし歯が進行し、痛みを伴って来院されたお子様の場合、歯科医師としては進行を食い止めるために早期に治療(削る・詰める)を開始しなければなりません。当然、お子様にとっては「歯医者=痛くて怖いことをされる場所」という強烈なトラウマになってしまいます。
しかし、疾患のない健康な状態であれば、お子様のペースに合わせてゆっくりと環境に慣れていくことができます。
・まずは保護者の方と一緒に診療台に座ってみる
・小さなお口の鏡(ミラー)を触って見せてあげる
・お水や風が出る機械を遊び感覚で体験する
当クリニックが実践しているこのよう「スモールステップ」で無理なく進められるのは、平時の予防受診ならではの特権です。
▶「歯医者嫌い」にさせないために。当クリニックが大切にしている「スモールステップ」

Dental Home(かかりつけ歯科医)としての役割
アメリカ小児歯科学会(AAPD)では、早期から継続的かつ包括的に口腔管理を行う「Dental Home」の確立を強く推奨しています。
痛みのない時期から通院を重ね、「ここは怖い場所ではない、お口を綺麗にしてくれる場所だ」という信頼関係を築いておくこと。それこそが、いざという不測の事態(外傷など)に直面した際にも、お子様がパニックにならず、私たちが適切で安全な処置を行うための「最強の備え」となります。
お子様のお口に何もトラブルがない、健康な時こそが歯科医院デビューのベストタイミングです。まだ一度も受診したことがないお子様がいらっしゃいましたら、ぜひお気軽に瀬谷アクロスデンタルクリニックへご相談ください。
【参考文献】
1.American Academy of Pediatric Dentistry (AAPD). Policy on the Dental Home. The Reference Manual of Pediatric Dentistry.
2.Nowak AJ, Casamassimo PS. The dental home: a primary care oral health concept. J Am Dent Assoc. 2002.
3.Caufield PW, Cutter GR, Dasanayake AP. Initial acquisition of mutans streptococci by infants: evidence for a discrete window of infectivity. J Dent Res. 1993.
4.日本小児歯科学会:「小児の口腔機能発達評価マニュアル」および早期定期管理の推奨に基づく知見
瀬谷アクロスデンタルクリニック
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