2026年10月02日
瀬谷アクロスデンタルクリニック 院長の黒﨑です。
歯を抜いた後の痛みや腫れは、通常であれば2〜3日をピークに徐々に落ち着いていきます。しかし、「抜歯後3日〜1週間ほど経ってから、ズキズキとした激しい痛みが強くなってきた」「痛み止めを飲んでも効かない」といった場合、「ドライソケット」という状態を引き起こしている可能性があります。
今回は、特に下顎の親知らずの抜歯などで起こりやすいドライソケットについて、そのメカニズムと予防法をエビデンス(医学的根拠)に基づいて解説します。
ドライソケットとは?
歯を抜いた後の穴(抜歯窩)には、通常、血液がゼリー状に固まった「血餅(けっぺい)」が形成されます。これは皮膚のケガでいう「かさぶた」と同じ役割を果たし、露出した骨や神経を保護しながら、新しい歯ぐきの組織が作られるのを助けます。
しかし、何らかの理由でこの血餅がうまく形成されなかったり、途中で剥がれ落ちてしまったりすることがあります。その結果、顎の骨がむき出しの状態になり、細菌感染や強い炎症を起こしている状態を「ドライソケット」と呼びます。
ドライソケット・抜歯後の治癒不全になりやすい要因
エビデンスに基づく研究から、抜歯後の治癒不全にはいくつかの明確なリスク因子があることが分かっています。

うがい・頻繁なうがい
抜歯後、血の味が気になってブクブクとうがいをしてしまうと、せっかくできた血餅が洗い流されてしまいます。
患部を気にして触ってしまう
舌で舐めたり、指や歯ブラシで触れたりする物理的な刺激も、血餅が剥がれる原因となります。
喫煙(タバコ)
ニコチンの血管収縮作用により、抜歯した部分への血流が悪くなります。十分な血液が供給されないと、正常な血餅が作られません。
特定の薬剤の服用
お薬によっては、血餅を溶かしやすくしたり、骨の治癒を妨げたりするものがあります。
低用量ピル(経口避妊薬):
含まれる女性ホルモン(エストロゲン)の作用により、血餅が早期に溶けやすくなり、ドライソケットのリスクを高めることが分かっています。(※次回のコラムで詳しく解説いたします)
骨粗鬆症のお薬(ビスホスホネート系製剤・デノスマブなど):
ドライソケットにとどまらず、「薬剤関連顎骨壊死(MRONJ)」という重篤な治癒不全を引き起こすリスクがあります。
ステロイド薬(副腎皮質ホルモン)・免疫抑制剤:
免疫を抑える作用があるため、細菌感染のリスクが高まり、傷口の治りが遅くなる原因となります。
当クリニックでの予防策と、患者様へのお願い
ドライソケットは一度発症すると治癒までに時間がかかり、激しい痛みが伴うため、瀬谷アクロスデンタルクリニックでは「予防」を第一に考えています。
実は、私が以前に院長を務めていたクリニックから現在の当クリニックに至るまで、抜歯後にドライソケットを発症された患者様は「通算0件」です。
これは、術前の服薬確認や低侵襲な抜歯手技、抜歯後の十分な止血処置、そして同意書を用いた事前の十分なご説明といったクリニック側の対策に加え、説明をご理解いただいた患者様ご自身が以下のホームケアを徹底してくださっている結果に他なりません。当クリニックで抜歯を受けられる患者様には、次のことをお願いしています。
【ご自宅で守っていただきたいこと】
1.うがいを控え、「かさぶた(血餅)」をしっかり守りましょう。
当クリニックでは、抜歯後の数日間は可能な限り「軽くゆすぐこと」も控えることをお勧めしています。
血の味が気になっても、実際にはほとんど出血していません。お醤油が一滴口に入っただけでしょっぱく感じるのと同じで、唾液に微量の血が混じるだけで味を強く感じてしまうためです。まずは大切な血餅を洗い流さないことを最優先にお過ごしください。
2.当日は長時間の入浴や激しい運動、飲酒などはお控えください。
血行が良くなりすぎると、一度止まった傷口から再度の出血が起こりやすくなるためです。
3.傷口が気になっても、舌や指で絶対に触らないでください。
おわりに
抜歯は、処置が終わった後も「傷口がいかに治っていくか」が非常に重要です。当クリニックでは術後の経過もしっかりとフォローいたしますので、安心してお任せください。
次回は、今回少し触れました「低用量ピルとドライソケットの意外な関係」について、詳しく深掘りして解説いたします。
【参考文献】
1.Deliverska E, et al. “Dry socket (Alveolar osteitis): Aetiopathogenesis, prevention and treatment-literature review.” Journal of Medical and Dental Practice, 2022.
2.Nilesh K, Pisal E. “Incidence of alveolar osteitis in female patients on oral contraceptive drugs undergoing mandibular third molar surgery.” Journal of Stomatology, 2019.
3.顎骨壊死検討委員会(日本口腔外科学会ほか)『顎骨壊死検討委員会ポジションペーパー2023』
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