2026年6月06日

昨今、YouTubeやSNSなどで「フッ素には発がん性がある」「フッ素は危険な毒だ」といった過激なタイトルの動画や投稿を目にすることがあります。
当クリニックを含め、全国の小児歯科の現場でも、「ネットの動画を見て不安になり、フッ素入りの歯磨き粉や、歯科での定期検診でのフッ素塗布をやめてしまった」というお悩みを聞く機会が少なくありません。
お子様を想う親御さんのお気持ちを考えると、少しでも危険性があると言われるものは避けたいと思うのは、ごく自然なことです。しかし、その「お子様を守りたい」という愛情からの行動が、結果的にお子様の歯を虫歯の痛みに晒してしまうとしたら、これほど悲しいことはありません。
今回は、ネット上に溢れる「フッ素の危険性」という情報の真実と、科学的根拠(エビデンス)に基づく正しい向き合い方について、歯科医師の視点から解説します。
発がん性に関する誤解:有機フッ素化合物(PFAS)との混同
まず、「フッ素に発がん性がある」という主張の多くは、物質の根本的な混同から生まれています。
ニュースなどで環境問題や発がん性が指摘されているのは、「有機フッ素化合物(PFASなど)」です。
一方、歯科で虫歯予防に用いられるのは「無機フッ素化合物」であり、これらは名前の一部が同じだけで、化学的には全くの別物です。
日常的な歯磨きや歯科医院でのフッ素塗布で使用される無機フッ素化合物については、WHO(世界保健機関)などの国際的な公衆衛生機関でも安全と評価されており、発がん性のリスクはありません。

「毒」か「薬」かを決めるのは「量」である
「フッ素は毒だ」という極端な主張のもう一つの根拠として、フッ素の毒性や致死量が挙げられることがよくあります。しかし、ここで知っておかなければならない科学・医学の絶対的な大原則があります。
それは、「すべての物質は毒であり、毒でないものはない。毒か薬かを決めるのは『量』である」(16世紀の医師、パラケルススの言葉)ということです。
例えば、私たちが生きていくために不可欠な「塩」や「水」も、短時間に大量に摂取すれば命に関わる猛毒になります。ビタミンでさえ、過剰摂取すれば中毒症状を引き起こします。
フッ素も全く同じです。確かに、フッ素を「極めて大量に」飲み込めば中毒症状が起きます。しかし、歯科医院で塗布するフッ素や、市販のフッ素入り歯磨き粉に含まれるフッ素の量は、中毒を起こす量には到底満たない、極めて安全にコントロールされた微量なのです。
予防を中断することの大きなリスク
ネットの不確かな情報を信じて予防の機会を避けてしまった結果、しばらく経ってから虫歯が進行した状態で来院されるケースは、決して珍しいことではありません。
大切なお子様を守るために良かれと思って取った行動が、結果的にお子様の不利益に繋がってしまう――その時の親御さんの胸中を察すると、私たちも非常に心苦しく感じます。
予防歯科の世界的権威であるアクセルソン博士の長期臨床研究でも証明されているように、定期的なプロフェッショナルケア(検診とフッ素塗布など)と適切なセルフケアを継続することで、虫歯の大部分は防ぐことができます。
誤った情報に振り回されて予防の機会を損失することこそが、お子様の将来の口腔内にとって最も大きな「リスク」なのです。
ネットの情報に不安を感じたら、まずはご相談を
インターネットやSNSでは日々膨大な情報が流れており、多くの人の目を引くために、どうしてもインパクトの強い言葉や「絶対ダメ」「危険」といった極端な表現が目立ちやすい傾向にあります。
医療や科学の情報は本来、「白か黒か」で断言できるほど単純ではなく、今回お話しした「量」の概念や、患者様一人ひとりの状態によって評価が変わる複雑なものです。しかし、短い動画やSNSの投稿ではそうした繊細なニュアンスが削ぎ落とされ、極端な結論だけが一人歩きしてしまいがちです。
もし、ネットや動画を見て「これって本当?」「うちの子のケア、このままで大丈夫?」と迷うことがあれば、どうか自己判断で予防を中断する前に、私たち歯科医師や歯科衛生士にご相談ください。
瀬谷アクロスデンタルクリニックでは、学術的なエビデンス(科学的根拠)に基づき、お子様の発育段階に合わせた最も安全で効果的な予防プログラムをご提案しています。(※当クリニックでは、お子様の顎の健全な成長を促す『NeO-Cap.System®(ネオキャップシステム)』などの小児矯正も取り入れており、お口全体のトータルサポートを行っております)
大切なのは、ネットの強い言葉に過度に怯えることではなく、「正しい知識と適切な量」を味方につけることです。大切なお子様の歯を、一緒に守っていきましょう。
【関連コラム】フッ素についてもっと詳しく知りたい方へ
当クリニックでは、フッ素に関する様々な疑問について、科学的根拠に基づき詳しく解説しています。ぜひ合わせてお読みください。
▶フッ素の真実:なぜ虫歯を寄せ付けないのか?(科学的メカニズム)
【参考文献・参考資料】
1.世界保健機関(WHO): “Fluorides and Oral Health”(フッ化物の安全性と口腔保健への有効性に関する見解)
2.国際がん研究機関(IARC): フッ化物(無機フッ素化合物)の発がん性評価(グループ3:ヒトに対する発がん性について分類できない=発がん性の明確な証拠はない)
3.厚生労働省 e-ヘルスネット: フッ化物利用(フッ素塗布・フッ化物配合歯磨剤など)によるう蝕予防の安全性と有効性
4.Axelsson P, Nyström B, Lindhe J.: “The long-term effect of a plaque control program on tooth mortality, caries and periodontal disease in adults. Results after 30 years of maintenance.” Journal of Clinical Periodontology, 2004.(予防歯科とプロフェッショナルケアの長期有効性を証明した30年間の臨床研究)
5.毒性学の基本概念: パラケルスス(Paracelsus)の法則「すべての物質は毒である。毒か薬かは用量による」
瀬谷アクロスデンタルクリニック
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