2026年6月13日
歯科治療、特に上の奥歯の歯周病治療などを受けた日の夜に、「急に耳の下(頬の横)がプクッと腫れてしまった」というごく稀なケースがあります。
「細菌が入って化膿したのでは?」とご不安になるかと思いますが、実はこれ、感染ではなく「唾液腺(だえきせん)の一時的な閉塞」が原因である可能性が高いのです。今回は、この現象の解剖学的なメカニズムについて解説します。
上の奥歯のすぐ横にある「唾液の出口」
私たちの耳の下には、「耳下腺(じかせん)」と呼ばれる最大の唾液腺があります。ここで作られた唾液は、「ステンセン管」という細い管を通って口腔内へ分泌されます。 実は、この管の出口である「耳下腺乳頭」は、上の第一・第二大臼歯(奥歯)の頬側の粘膜に位置しています。つまり、上の奥歯の処置を行うエリアのすぐ真横に、唾液の出口があるのです。
なぜ治療後に腫れるのか?
この出口は通常スリット状になっており、逆流防止弁のような機能を持っています。しかし、ごく稀に以下のような物理的な条件が偶然重なることで、一時的な腫れ(浮腫)が生じます。
器具による一時的な圧排
治療部位の視野を確保するため、頬を牽引するミラーやバキュームが唾液の出口付近を圧迫し、粘膜が一時的にむくむ。
気圧・水圧の影響(耳下腺気腫)
超音波器具などの水圧や空気が、偶然出口の向きと合致し、管の中に逆流してしまう。
これにより、一時的に唾液の出口が塞がり、作られた唾液が行き場を失ってうっ滞することで、耳の下が急激に腫れ上がります。これは国内外の学術論文でも「物理的ストレスによる一過性耳下腺腫脹」として報告されている現象です。

薬ですぐに治る医学的な理由
細菌感染による「化膿性耳下腺炎」であれば、治癒に時間がかかります。しかし、今回のような一時的な閉塞の場合、消炎鎮痛剤や粘膜の腫れを引かせる薬(トラネキサム酸など)を服用すると、出口のむくみが消失して管が開通します。 溜まっていた唾液が速やかに排出されるため、「薬を飲んだらすぐに治った」という劇的な回復を見せるのが特徴です。
安心して治療を受けていただくために
この現象は、歯科医師が一生の間に数回遭遇するかどうかというほど「ごく稀(まれ)」な偶発症であり、手技的なミスではなく解剖学的な条件が偶然重なった結果起こります。一晩や数日で自然に治癒することがほとんどですので、過度な心配はいりません。
瀬谷アクロスデンタルクリニックでは、こうしたお口の中の解剖学的な構造を深く理解し、常に学術的な根拠(エビデンス)に基づいた安全な治療を心がけています。治療後に何か変わったことやご不安なことがありましたら、決して放置せず、いつでも当クリニックにご相談ください。
参考文献
1.Takenoshita, Y., et al. (1991). “Pneumoparotitis: a complication of dental treatment.” Journal of Cranio-Maxillo-Facial Surgery.
2.McGreevy, A. E., et al. (2012). “Acute swelling of the parotid gland: a review.” Head & Neck.
瀬谷アクロスデンタルクリニック
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